2015年4月24日、Appleが「最もパーソナルなテクノロジー」と表現するApple Watchの発売が開始された。
昨年9月のメディアイベントのプレビュー以降、7ヶ月強を経てのリリースだ。また、同社にとってApple Watchは、iPad以来およそ5年ぶりとなる新カテゴリーへの参入となる。
思えば、この半年の間でApple Watchの印象が大きく変わった。
昨年9月、私はApple Watchを「ダサい」と感じていた。各社こぞってスマートウオッチをリリースしており、特に丸型のディスプレイが流行っている中での、スクエアフォルムのデザインだったからだ。
満を持して登場したApple Watchがこの形なのか・・・。そう思ったユーザーも多いのではないだろうか。
だが、そうした印象はAppleの半年がかりのマーケティング戦略とユーザー体験で変わることになる。
ファッションアイテムとしてのApple Watch
VOGUE JAPAN No.180 / Tarzan No.670
Appleは、昨年9月の発表当初から「ファッション」を全面に打ち出す展開を見せ、従来のスマートウオッチとは一線を画する位置づけをしてみせた。メディアイベントには世界中のファッションプレスを招待した。発表後は様々な国の『VOGUE』の表紙や記事にスペシャルな露出を仕掛けた。
今年3月の発表後はスポーツ分野の連載を開始した。トップモデルのChristy Turlington Burns氏がApple Wartchを使ってワークアウトやヨガをする体験を毎週にわたって共有する内容だ。
国内では『Tarzan』に独占記事が掲載された。
2015年4月10日、遂にユーザー体験が始まった。
全国のApple Storeをはじめ、伊勢丹新宿やApple Shop、Apple Premium ResellerなどでApple Watchの試着が一斉に始まったのだ。スマートウオッチ分野はもちろん、腕時計分野でも未発売製品の試着という概念は新しかった。
特にスマートウオッチに関しては、従来製品は家電量販店のGケースに無造作に並んだ「ガジェット」を店員さんにお願いして取ってもらってレジに持っていく、あるいは「そんなもの発売してたっけ」という反応すら受けるようなマニアックな存在だった。
あるメーカーは発売に際して女性モデルを起用して親しみやすい雰囲気を演出しようとした、それは不完全に終わり、ガジェットの領域を抜け出すことは無かった。
Apple Watchは違う。完全な戦略のもとでイメージを定着させた。
全ての店舗で同じ展示台を使って共通の世界観を作り上げ、来店した人に「Apple Watchはこういうモノだ」という概念を植えつけた。また、百貨店でアクセサリを眺めるがごとく、ショーケースに綺麗に並べられたApple Watchを「この色が可愛い、これが綺麗だ似合うよ、このバンドがかっこいい」と指差しながら見ている。
ハイブランドの路面店が建ちならぶ表参道に昨年オープンしたアップルストア表参道では、休日ともなるとショーケースを眺める人たちが後を絶たず、若いカップルを含む幅広い層が見入っていた。実際の試着では、マンツーマンの接客で様々なバンドを体験する人も多い。
このような演出が従来のスマートウオッチに用意されていただろうか。
Applestore表参道でAppleWatchの試着してきたよ#applestore#applewatch#チームA
若い女性に圧倒的な人気を誇るAKB48の小嶋陽菜さんはアップルストア表参道で試着を体験し、その模様をInstagramにポストした。その後に38mmのピンクスポーツバンドの「Apple Watch Sport」に決めたことを公表すると、同モデルは納期が1ヶ月スライドしたそうだ。物凄い影響力だ。(ちなみに本日、ミラネーゼループを購入したことを公言している)
すでにこのような雰囲気である。
Apple Watchは発売前から他のデバイスを圧倒し、パーソナルな存在になりつつある。
2つのケース、2つのサイズ
この記事では機能面の紹介は控えめにするが、ざっくりと説明すると、Apple Watchは大きく「Apple Watch Sport」「Apple Watch」と最高級モデルの「Apple Watch Edition」の3つに分けることができる。また、ケースの大きさで38mm、42mmの2サイズが用意されている。
Apple Watch Sportはアルミニウム7000シリーズを採用したケースにエラストマー樹脂バンドを組み合わせることで、軽量ボディを実現している。ワークアウト後の水洗いにも最適だ。まさにランニングやフィットネス用途のユーザーにおすすめできる。
Apple WatchとApple Watch Editionはステンレススチールケースを使用している。
美しく磨きがかかったケースは、鏡面仕上げのiPodを思い起こさせる。Apple Watchにも新潟県燕市の技術を用いているとの話もある。
女性に語りたい腕時計としてのApple Watch
スマートウオッチでは考えられないことだった。
Apple Watchを女性に。
オシャレなオフィスカジュアルの女性には、ステンレススチールケースとソフトピンクモダンバックルのバンドの組み合わせが最高に上品だ。Apple Watchは通知が来るたびにピカピカ光るわけではない。その控えめさも魅力だと思っている。
リラックスした休日コーデには、Apple Watch Sportが意外にも違和感を与えず、適度な抜け感を演出する。
あるいは、流行スニーカーにバックパックのアクティブ系女性にも、Apple Watch Sportを薦めたい。スタンスミスのホワイトスニーカーなら、Apple Watchもホワイトバンドで統一感を出させるか、あるいは腕元だけピンクやグリーンの鮮やかな色のバンドでアクセントを作り出すか。
ニューバランスのスニーカーなら・・・。
このように、組み合わせを楽しむファッションならではの視点で語れるApple Watchは、まさにAppleが目指したターゲットを捉えているように思える。
「必要ない」からこそプラスアルファの付加価値を
従来のスマートウオッチにも言えることだが、Apple Watchでできることは一部機能を除いたらiPhoneで完結する。Apple Watchは、あくまでiPhoneのアクセサリということになる。
「私には必要ない」「私には愛用する時計がある」「私はもともと時計を着けない」これが今までスマートウオッチを展開する上で悩ましかった、ユーザー側の最終的な意志だった。
だが、これを変えたのはiPodでありiPhoneだ。「私は音楽を聴かない」「MP3プレーヤーなら持っている」「私は携帯電話で十分だ」そういう人たちがiPodを買い、iPhoneユーザーになった。
それがApple Watchでは決して起こらない、と誰が言えるだろうか。世論、ブーム、世間の雰囲気というのは一夜で変わるものだ。小嶋陽菜さんが着けてみせたとたん、スマートウオッチとは無縁の層がApple Watchをファッションアイテムと定義付けたのだ。
Apple Watchは本日発売されたばかりだ。しかし、そこにはすでに成熟した関心が存在する。
次の半年で、Apple Watchが「何であるか」はユーザーが各々の世界観で位置づけて、それぞれの答えが出るはずだ。
そして、そのためにAppleが何を仕掛けるか、それもまた興味深い。